umemedaka-style’s diary

本と旅をつなぐブログ

第117号:先生との出会いの鎌倉の浜辺・・・『こころ』

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夏目漱石の『こころ』は、たしか高校1年か2年のときの現代国語の教科書に三部構成のうちの第3部の「先生と遺書」だけ掲載されていた記憶があります。一部抜粋といっても、当時の私は本なんて全然読まなかったので、辟易するほど長いと感じたことを覚えています。

 

授業では、第3部だけ読んだので(第3部は、確かに核心的な部分ではあるけれど)、おそらく前の部分の説明もついていたと思いますが、全くといっていいほどその背景や周辺的知識は記憶に残っていませんでした。

 

今回読んで、あらためてディテールが浮かび上がってきました。

主人公「私」と「先生」の出会いは、鎌倉の海でした。本文でも由比ヶ浜(由井が浜では原文記載)にホテルがあったとあり、その近辺の浜辺で「私」が「先生」を数回見かけ、先生の落とした眼鏡を拾ってあげ、先生を追って海に入って泳いだところ、先生から声をかけられて、はじめて言葉を交わします。

 

本文からと全集の解説から読み取ると、明治後期にそのホテルというのは「海浜院ホテル」のことで湘南唯一のシーサイドホテルだったようです。もともと西洋風の保養のためのサナトリウムだったこともあり、ホテルになってからは外国人にも好まれ、大正時代に「海浜ホテル」という名前に変わって、大規模改装して人気があったようです。

 

鎌倉は、明治の時代も素敵な避暑地だったのね、と妙に納得し、今ほどに賑やかではないけれど、「先生」や「私」やのように一夏をこの地で過ごす人が当時も訪れていたことを想像します。

 

そして、今回30年以上ぶりに読んでみて、いろいろなものが私の中に飛び込んできて、「さすがだわ。夏目漱石。」と唸るほどでした。

 

時代背景としては、長く続いた江戸が終わり、武家が中心となっていた封建的な時代の終焉と天皇制に変わり近代的国家を歩み始めた新旧入り交じる価値観の混沌とした時代です。そういう時代であるからこそ、「明治の精神」という言い方で表現されるのかもしれません。

 

しかし、現代人にとってはそれは男尊女卑的でもあり、時に首をかしげたくなるような内容でもありますが、いい意味では高潔で、義理堅い武士道を思い起こさせる部分が共存しており、一面的には読むことの出来ない深さがありました。

 

読んでみる価値がある一冊です。

 

こゝろ (角川文庫)

こころ / 夏目 漱石 著

東京 : 角川書店 ,  2004.5

335p  ,  15cm

改版