内田洋子さんの「ジーノの家」を久しぶりに読み直しました。
短編、でもそれはジャーナリストの内田さんらしく、全部本当にあったお話だということで、こんな出会いがあるのね~、などと思いながら読んでいます。
イタリア10景という名のとおり、各地での話が載っています。ミラノ以外は、ほとんどが私の行ったことのない小さな町ですが、どれも情景を想像しながら読みました。
滋味深い話ばかりですが、今日はナポリでの出来事を書いた「初めてで最後のコーヒー」をあげてみます。
内田さんが初めてイタリアに留学に行った地がナポリだったそうです。30年ぶりに恩師の病が思わしくないということで、ミラノから電車でナポリへ向かいます。
コンパートメントで遭遇した人たちとの話も、電車に乗って移動する人独特の空気感があるというのが、よくわかるエピソードでした。そして、目的地ナポリについて、タクシーに乗ると、行き先と違う方向に向かっていると気づきます。
かつてナポリに住んでいて、この地をよく知る内田さんは同じ道を回ろうとする運転手に「どうせなら、モンテ・サントにいったん入ってから、上って行ってください」というと、運転手はコーヒーを1杯ご馳走させてほしいと言います。
そして、2人はモンテ・サント地区のバールでコーヒーを飲みます。その時、運転手は「心付けのコーヒー」用に多めにチップを置いたのでした。ここでの「心付けのコーヒー」とは、懐に余裕のない、しかしコーヒーが飲みたいというような人がバールに立ち寄ったときのためのものでした。その後、景色のいい海沿いをドライブし、会員制のテニスクラブのラウンジに連れて行ってくれたりします。
そして、恩師ライーノ夫人宅に到着したのでした。そこで、運転手はジェンナーロといい、ライーノ夫人宅に仕える人の子どもで、ライーノ夫人に可愛がってもらって、あちこち連れて行ってもらっていたということを知ります。
「心付けのコーヒー」はライーノ夫人からの頼まれごとだったといいます。
粋な計らいが他にも出てきますが、うーむ、日本人には計り知れない、カフェ文化を感じます。
そして、少し前にハマった「ナポリの物語」と重なって、たしかにこの町の「多重構造」を感じる話でした。
こういうエピソードを聞くと、やっぱりイタリアにリアルに行ってみたいと思います。
ジーノの家 ; イタリア10景 / 内田洋子著
東京 : 文藝春秋社 , 2011.2
p283 ; 20cm