umemedaka-style’s diary

本と旅をつなぐブログ

第75号:ジュデッカ島にて・・・「対岸のヴェネツィア」

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内田洋子さんの「対岸のヴェネツィア」を読みました。以前ブログに書いた「十二章のイタリア」を読んだあとにこの本を買っていたのに、カバーをかけたままなぜか本棚に入れっぱなしになっていて・・・。

 

「今さらヴェネツィアでもないでしょうに。」と周りの人にあきれられながらも、ミラノに住んでいた内田さんがヴェネツィアに住むことを決め、物件を探します。雨宿りに立ち寄った美術館で思いがけない出会いがあり、紹介されたいくつもの物件の中から、ジュデッカ島の岸壁に面した物件に巡り会います。 

 

それまでも何度もヴェネツィアに訪れていた内田さんですが、ジュデッカ島の岸壁に暮らしてみて、あらたに知ることがことも多かったようです。内田さんの目を通して、ヴェネツィア本島だけがヴェネツィアでないことを読者も知ることができます。ヴェネツィア本島がハレであれば、ジュデッカはケというように、対岸の本島とはまた違う姿があるのでした。 

 

内田さんの行くところ、行くところ、ストーリーがあり、まるで歩く引き寄せの法則のような内田さんですが、その1つ1つがとても興味深いです。

 

たとえば、ジュデッカ島の近所の青果店地産地消の商品を売りにしていて、その店を切り盛りする3姉妹はペッレストリーナ島の出身とのこと。ヴェネツィア地産地消??と思うと思うのですが、その野菜はサンテラズモ島で作られているというのです。どちらも私自身聞いたこともなかったので、少しびっくりしました。

 

内田さんがそのサンテラズモ島に出かけていくと、その島は第1次大戦下はオーストリアの管轄下にあり、非常用の火薬庫がいくつかあったことがわかり、その土地を守ってきたのは法曹界の重鎮を務めてきたと想像できる弁護士の紳士だったり、思いがけない出会いが待ち受けていたりします。野菜の島と弁護士と一見結びつかないようですが、それがまた面白いです。

 

また、ジュデッカ島には元煙草専用の倉庫だったところが、古文書のデジタル化を行っている国立古文書館分館になっていたり、Zitelle ヅィテッレ(行かず)という名の教会と女子修道院があり、そこへ定期的に本を届ける市立図書館の存在があったりもします。

 

その市立図書館では、イタリア全土で行われている読書推進計画として『読むために生まれてきた』という活動を行っています。近くには寄贈された屋敷を自分たちで手を入れて運営している市営保育園があり、イタリア語のしゃべれない両親もいて、いろいろな肌の色の子どもがいて、問題を抱えたケースもあり、内田さんが書かれているように「本が子供を救う糸口となるケース」もあるのかもしれません。

 

水に囲まれた島と紙の本というと、相性が悪そうに思いますが、ヴェネチアにおいては昔を伝える文書も、いまを生きる人たちにとっても本が伝えるものは大きいのでは、と嬉しくなります。

 

くしくも、この新型コロナウィルスの影響で私は仕事と収入が激減したので、数年前に取得しておきながら活用できていなかった司書の資格を生かして、週に数時間だけ図書館司書の仕事することにしたので(もちろん現在閉鎖中でいつ再開するかは未定です)、このジュデッカ島の市立図書館の職員のアンナとアンジェラの活動も私にとっては興味深いものでした。

 

ジュデッカ島というと、私が添乗でよくヴェネツィアへ出かけていた頃、ヴェネツィア本島のローマ広場でバスを降りて、その後プライベートボートでサンマルコ広場へ向かうときに、大運河と呼ばれるカナルグランデではなく、ジュデッカ島と本島との間のジュデッカ運河を通ってアプローチしていました。

 

ジュデッカ島の脇を通過すると、サンマルコ寺院と鐘楼が見えてきます。ヴェネツィア本島の玄関口であるローマ広場やサンタルチア駅から中心のサンマルコ広場はいろいろなアプローチの仕方はありますが、このジュデッカ運河を通るルートで南側からサンマルコ広場へアプローチするのが一番感動があるように感じられます。

 

いつもであれば、人が行き交うヴェネツィア本島も今は新型コロナウィルスのために、外出禁止令がでて、人が出歩ける状態ではありません。昨年12月の記録的なアクアアルタ(高潮)により、大きな被害が出て、今年のカーニバルはヴェネツィアを応援する気持ちにあふれるものでしたが、カーニバルの時期に新型コロナウィルスが拡がりを見せたこともあり、今年のカーニバルは期間が短縮され終了しました。

 

かつてのペストで人々の意識と生活が徐々に変わったように、新型コロナウィルスにより良くも悪くも何かしら変わるものもあるのではないかと思います。

 

対岸のヴェネツィア

対岸のヴェネツィア / 内田洋子著

東京 : 集英社 , 2017

209p ; 19㎝