第38号:壇奇放(泡)亭が住んだサンタクルス・・・「火宅の人」そして「壇」

先週は、お休みしまして大変失礼しました。

2月末から3月上旬にかけて、ヨーロッパは天候が大荒れでしたが、ようやく天候が回復してきた先週あたり、私の担当するお客様がどのグループも、バルセロナ、ロンドン、パリ、フィレンツェ、ローマ等に旅に出たところで、現地の情報を気になりながら、日本で過ごしていました。フライトの遅れもなく、トラブルもなく帰国されると、そのたびにほっとするという日々を送っていた先週でした。

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さて、話は変わりますが、春めいてくると、ポルトガルに行きたいなーとここ最近思っていて、来年の3月にはポルトガルに行くことをひそかに計画中です。ポルトガルは私にとっては、ヨーロッパの中でも一足先に春が来るというイメージです。

 

昭和50年に発刊された壇一雄著の「火宅の人」。今ではなんで読むことにしたのかわかりません。この本を読んだころ、池波正太郎新田次郎のエッセイ的なものもはまっていたので、そういう時期だったのかもしれません。

 

「火宅の人」は自伝的小説と言われていますが、あくまでも小説だと思いつつも、この壇一雄という人、妻や家族を置いて、愛人と東京で同棲、飽きると二人で旅にでる生活。ここだけ聞くと、今の不寛容社会ではまったく許されないのだろうけれど・・・。

 

最後にはこの小説で、主人公は愛人とも別れ、かりそめの愛人にも捨てられ、安ホテルで一人侘しい生活。「なーんだ!オレ、ヒトリボッチ!」というセリフが出てきて、思わず笑ってしまいます。

 

「火宅の人」は一気に書かれたものではなく、長年にわたって部分的に書かれたものを一冊にまとめたようです。豪快にして、繊細な一面を持つ壇一雄。美食と女と酒を愛した昭和の大作家。いつでもだれかにぬくもりを求めていた。金は右から左へ、飽きれば旅に出た。

 

奇遇にも祖母と同じ明治45年2月生まれだったので、私にとっては、壇一雄のこの自伝的小説にでてくる主人公のきっぷの良い生き方や、当時の風俗や東京の様子が祖母の生きた時間を知るうえで興味深かったのかもしれません。

 

平成7年に、沢木耕太郎著の「壇」は、70代になった妻が口述したという形式で書かれている小説で、「火宅の人」と合わせて是非読みたい1冊。

 

「火宅の人」への反論もあり、「火宅の人」のエピソードと並行して、小説という形で書かれています。主人公は桂一雄という名で登場します。この小説の終わりの部分では、「火宅の人」では書かれなかった主人公桂一雄(壇)の最期の日々が書かれています。日本を離れてヨーロッパの旅に出て、1年半ほど、ポルトガルサンタクルスという鄙びた漁村を気に入って居を構えた主人公。

 

ポルトガル行きの前から気になっていた主人公桂の体の不調は帰国後、徐々にひどくなり、福岡の対岸にある能古島で、期せずして療養生活になってしまいました。この島を気に入り、家まで購入しましたが、その後福岡の病院に入院することになり、東京には戻ることはできなかったといいます。

 

この「壇」の後半では、憑き物が落ちたようなやけにすっきりした主人公がいます。そして、この小説では、飽きっぽくて、熱しやすく、冷めやすく、今の自分から脱出したくて次々と夢見るという夫の性格を見抜いていて、それを受けいれた妻の聡明さにも脱帽してしまいます。

 

実際の壇がこの小説のようであったとすれば、そんな憑き物が落ちたあとの壇だからこそ、この鄙びた、当時何にもなかったであろうサンタクルスをとても気に入ったのではないかと思いました。

 

火宅の人 (上巻) (新潮文庫)

火宅の人 (下) (新潮文庫)

火宅の人 / 壇一雄

東京 : 新潮社 ,1981

15㎝ ; 上巻478p 下巻476p

檀 (新潮文庫)

壇 / 沢木 耕太郎著

東京 : 新潮社 ,2000

284p ; 16㎝