umemedaka-style’s diary

本と旅をつなぐブログ

第105号:母娘の記憶の中の海の町は、もしやフィゲラス??・・・「銀の夜」

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角田光代さんの「銀の夜」を読みました。

なぜ、この本に行き当たったのか、記憶にはないのですが、図書館からリクエストの本が届いたと連絡がきて、早速借りてきました。

 

著者らしく、それぞれの心の片隅にありそうで、他人(ひと)には話せない心理をうまく描いていて、でも最後にはちゃんと希望がある、という小説でした。

 

主人公である35歳のちづる、麻友美、伊都子は、私立中高の同級生で、高校生の時に、少女バンド「ディズィ」として、メジャーデビューしていました。その後、その活動を学校によって高校を退学処分となり、退学後も少し活動しましたが、それぞれに大学に行くなど、別々の進路を見つけ、この活動は過去のこととして生きてきました。麻友美はその時代が絶頂だったと思い、あとの二人は忘れたい過去として、思い出さないようにしているようでした。しかし、3人は境遇は違えど、食事に行ったり、連絡を取り合ってきました。

 

高校生の時に、一緒に時間を過ごし、何でも相談した仲間でも、35歳になった彼女たちは、自分の状況や思いを今では3人で共有は出来なくなっていました。

 

そんな折り、伊都子の母茉巳子に癌が見つかり、すでに良くない状態。伊都子は、母娘二人で生きてきました。母茉巳子は、翻訳の仕事をしており、国内だけでなく、海外でも伊都子と二人で暮らしました。伊都子は母茉巳子に褒められたいと思いながら大人になるまで生きてきました。

 

35歳になった伊都子は、母からの呪縛が自分で解かれつつあることを喜んでいましたが、母の病気を前にどうしていいのか分からなくなっていました。

 

母茉巳子が術後のせん妄の中で、海の町でのことを話します。二人はいくつかの海の町で過ごしたようですが、伊都子が回想した風景があります。

 

九歳だったか、十歳だったか。イギリスに住んでいた伊都子と茉巳子はスペインまで旅をした。マドリッドからバルセロナを経由し、フランス国境に近い町に滞在した。なんにもないようなところで、伊都子にはただ退屈だったのだが、茉巳子は気に入ったらしく、予定よりも長くいたように記憶している。有名な画家の生まれた町らしく、画家の作品を展示した、奇抜なかたちの美術館があった。伊都子はその建物が気味悪くて近づくまいと決めていた。

 

                     本書「銀の夜」から引用 

これを読んだときに、町の名は出ていないのに、「あ、フィゲラス(Figueres)だ」と思いました。バルセロナからフランスのほうへ向かって行った国境に近い町。あのダリの奇抜な美術館。

Inici - Visit Figueres

ca.visitfigueres.cat

フィゲラスの町から少し離れたところに、カダケスという漁村があります。入り江に、卵のオブジェのあるダリの別荘があり、私には一緒に連想されました。ダリには似つかわしくないようなシンプルな色使いの静かな入り江の別荘。

 

フィゲラスの町にはダリ美術館は、ほんとうに奇抜で、美術館内部の雰囲気も他にはない、唯一無二の感じがとても印象に残っています。

 

いまでこそ、バルセロナから日帰りで行くメジャー観光地ですが、私が行った頃はまだ日本人のツアーは少なくて、あの美術館に驚きを感じたことは今でも忘れられません。

 

ストーリーに戻りますが、伊都子は母に海を見せてあげたいと思い、ちづると麻友美も力を合わせるでした。

 

最後のところで、伊都子がスペインへ行くことが分かります。フィゲラスに行ったのかな・・・。

 

銀の夜

 

銀の夜 / 角田 光代著

東京 : 光文社 , 2020

300p  , 20cm