大変ご無沙汰しています。
1年延期して2021年に開催された東京オリンピックから3年。パリオリンピックが先日終わりました。
今年は、パリオリンピック期間中にパリへ行くお客様が結構あり、なんだか落ち着かない日々を過ごしていました。
久々に書いてみようと思ったのは、やはり内田洋子さん。
内田洋子さんの書いていた文章の中で、たまたま出会った老舗の本屋さん。
ぶらりと立ち寄ったときに「イタリア発イタリア着」と遭遇しました。
内田さんか最初に留学したナポリの話。この本には他にもナポリやナポリ近郊に住む人の話が出てきますが、なかなか旅行では知ることのない話を興味深く読みました。
その中の一つ、「不揃いなパスタ」では、内田さんと同じ大学に通う、クールな印象のカルメンとそのカルメンに憧れるように甲斐甲斐しく彼女をいつも学校までエスコートするニーノの話でした。
カルメンは、ナポリの郊外の特徴のない田舎街で裕福な暮らしをしていて、両親の留守に友人を呼んでパーティーをして、郊外で知り合いばかり多く娯楽のない町で時々毒抜きをしていた。
そんなカルメンのパーティーに呼ばれることのないが、ナポリに通ってくる彼女を毎日送り迎えするニーノは公務員を2,3年してから中国語を学びたいとナポリ大学に入学した。彼は、他の学生たちよりも随分落ち着いていて、大人びた印象。真面目そのもので、Tシャツ姿を見たことがなく長袖の綿シャツで、ジーパンは履かず、いつもプレスの効いたスラックスを履いていた。
内田さんが彼の家に行くと、公務員の父母と妹と弟がいた。家の隅々まで案内してくれたニーノの母。地方公務員と言っても質素な暮らしぶりで、午前の仕事が終わったあとに、ニーノの父は近所のよろず仕事を、母は家庭教師をしていたという。それでも冷蔵庫のドアには、観光名所の磁石のミニチュアが飾られ「家族の過去の幸せな時間」が見られた。
夕食の後は、深夜までモノクロの映画をニーノの家族と一緒に見た。家族にとっては、セリフも言えるほどに見慣れた南部の俳優が出る映画だった。朝は簡単に食事をするイタリアの中で、朝からパスタを煮込む匂い。ニーノの家では、体の弱かった息子のために朝から豆入りのの不揃いのパスタを煮込み朝食にしていた。すっかり、息子は元気に育った。
1960年代頃のナポリではあちこちでパスタを打って売る店があり、様々な形状のパスタが売られていた。その折れたり切れたりして残ったパスタを集めて、<交ぜ合わせ>パスタとして安売りしたらしい。それは下町の救世食となった。地道な時を重ねて今につなぐ生き方をするニーノの家族。
ナポリ近郊といっても、いろいろな家族がいて、カルメンの家族とニーノの家族の対比があり、イタリアらしいエピソードでもあり、思わずこみ上げてしまった。
イタリア発イタリア着 /内田 洋子著
東京:朝日新聞出版, 2019.2
p.300 , 15cm