中島京子さんの「やさしい猫」を読みました。
特に最後の100ページくらいは、ボロボロ泣きながら読んで、こんなに嗚咽しながら読む本って、ここ最近出会っていません。
この話はスリランカ人のクマラさんとミユキさんと、ミユキさんの娘のマヤちゃんの話。東京の片隅住む普通の家族の話。
でも、クマラさんはスリランカ人で、就労ビザが切れてしまったから、入管に収容されて大変な目に遭うんだけれど・・・。
二つの大仏。
一つは、クマラさんが見たがっていた鎌倉の高徳院の大仏。
”大仏に向かって左手の木陰にひっそりと、人の顔のレリーフをつけた赤い石碑”
があります。そこには、ジャヤワルデネ前スリランカ大統領が言った言葉が彫ってあるそうです。
人はただ愛によってのみ
憎しみを越えられる
人は憎しみによっては
憎しみを越えられない
法句経五
この大統領は、終戦後のサンフランシスコ講和条約で日本の自治権を認めるかどうかというときにこの言葉を演説で言い、会議の出席者に”日本に寛容さを示すべきだ”と説得してくれたそうです。
もう一つの大仏は、東日本入国管理センターの近くにある牛久大仏。
窓もない部屋に収容されて、クマラさんはもちろん大仏様を見ることも出来なかったわけだけれど・・。
スリランカは70%が仏教を信仰しているので、大仏様のところにスリランカの大統領の言葉の石碑があるのもそのあたりが関係しているのかなと思いますが、そのあたりは実際に鎌倉に行って確認したいです。
牛久の大仏様は高さ120m、鎌倉の大仏様は11.31m。大仏様は慈悲深く、人びとを包みこむ存在だと思います。
くしくも、この二つの大仏様の近くには不寛容な組織の施設と寛容な言葉のレリーフという対比があるのではないかと思いました。
また、この話の中に出てくるクマラさんが話してくれる「やさしい猫」というスリランカ民話の猫とねずみ。大きな者(強い者)と小さい者(弱い者)という対比も印象的です。
この小説は構成も完璧ですし、静かに、穏やかに話が進んでいくのに、読者をぐいぐいを巻き込んでいき、本当にすごいです。そして、日本という国は、私たちはと考えざる得ません。
スリランカ人のウィシュマさんが入管で収容されて亡くなったことは記憶に新しいところですが、そういうことがウィシュマさんだけが例外でなく起こっていることを考えざる得ません。
私には何ができるでしょう。深く考えてしまいます。
やさしい猫 / 中島 京子著
東京 : 中央公論新社 , 2021.8
410p , 20cm