NHKの朝ドラ「カムカムエヴリバディ」が昨日最終回を迎えましたが、今回取り上げる山本文緒さんの「自転しながら公転する」も言ってみれば、ある家族の物語でもあります。ぐいぐい物語に引っ張られて、あっという間に読んでしまいました。
プロローグは、ベトナムで結婚式を挙げる花嫁の言葉で綴られ、エピローグでは結婚式の後のパーティーがサイゴン河のクルーズ船の上で行われるようすが出てきます。
プロローグとエピローグは短いものです。本編では、この物語の主人公の都♀(みやこ)が東京での仕事を辞め、茨城県の実家に帰ってきて、牛久大仏近くのアウトレットモール内の洋服店で販売員をしているところから始まります。
ここで、おそらくこの場所のモデルは阿見のアウトレットだとわかります。私は、個人的に阿見のアウトレットがオープンした頃、比較的頻繁に行っており土地勘があるのでこの地方感あふれる人間模様は、よりリアリティが感じられました。
そのショッピングセンター内の回転寿司屋で働く貫一♂との出会いや二人の付き合いの様子などが描かれます。
金色夜叉と同じくお宮と貫一。都は純粋に貫一といることは楽しいし、彼のよさもわかっているのに、中卒であったり、元ヤンキーだったり、時々だらしのないところを目にして、膨れてくる不信感との間で気持ちが揺れ動きます。
家族内で共有された固定的な狭い価値観により生きづらくなることや一度バイアスがかかってしまったものを取り払うことが難しいことなど考えさせられることが多い話でした。
著者の山本文緒さんは2021年10月に亡くなられました。本当はこの先ももっとこのような推進力のある小説を読みたかったです。
自転しながら公転する / 山本文緒著
東京 : 新潮社 , 2020.9
p478 , 20cm