もっとちゃんと須賀敦子さんの本を読んでおけばよかったのに・・・と思ったのは、2000年代後半になって、私が旅行会社でツアーの企画をするようになってからだった。2000年代前半、イタリアによく添乗に行っていた頃に読んでいたら、もう少し違った見方ができたかもしれない。
白水ブックスの薄ピンクのカバーの『ミラノ 霧の風景』、『コルシア書店の仲間たち』、『ヴェネツィアの宿』、『トリエステの坂道』、『ユルスナールの靴』の5冊は、今も私の宝物だ。
今回、若松英輔さんの『霧の彼方 須賀敦子』を読んだ。この本以外にも、須賀さんに関する本はたくさん出ている。彼女が作家として活躍した時期は、彼女の晩年にあたり、その期間はとても短かった。それ故か、須賀さんが亡くなった後、須賀さんの生きた道をたどるような本は多い。
この本は、須賀さんをたどる本の中でも、特に須賀さんの信仰や思想(哲学と言ったほうがいいのかもしれない)について、重点が置かれているように思う。
その中も書かれているが、ミラノの旧コルシア・デイ・セルヴィ書店は、『コルシア書店の仲間たち』で描かれた書店である。ミラノの大聖堂から程近いサンカルロ教会の建物にある書店で、現在はサンカルロ書店(Libreria San Carlo)という名になっている。著者も書いているように、現在は神学系の本が店頭に置かれ、コルシア書店時代の中心人物だったダヴィデ神父の本などがならび、コルシア書店時代への回帰へが感じられるという。
著者の若松氏が『コルシア書店の仲間たち』について、こう書いている。
『コルシア書店の仲間たち』は、単なる須賀の回想録ではない。それは「現代社会のかかえる問題から決定的にとりのこされている教会を、どうやって今日のわたしたちが生きている時間に合わせるか」という革命的な問題に直面し、そこに突破口を開いた者たちの挑みの歴史物語でもある。
本書『霧の彼方 須賀敦子』より引用
それを読んで、私の改めて考えた。須賀さんの夫となったペッピーノさんも『コルシア書店の仲間たち』で一人であり、タイトルからすると、楽しい仲間たちとの話のように見えがちだが、単なる出会いの場でなく、須賀さんの思想に基づいた行動や実践につながる場であったことを。
須賀さんの言葉は、美しく、静かで、全く押しつけがましくない。彼女が求めた道や信仰は、頭でっかちなものではなく、リアルに生きることにむずびついた内なるものであったと思う。
この本を読みながら、須賀さんの住んでいた1960年頃のミラノはどんな風だったのかと想像していた。
霧の彼方 須賀敦子 / 若松 英輔著
東京 : 集英社 , 2020
471p ; 20cm
余談ですが、この本のなかに出てくる須賀敦子さんの書いた童話「わるいまほうつかいブクのはなし」は、とても興味深く、本でよみたいと思いましたが見つからず。どなたかご存じでしたら、教えてください。