坂田ミギーさんの「旅がなければ死んでいた」を読みました。センセーショナルなタイトルですが、旅っていいなあって思わせてくれる本でした。
著者は広告の制作会社で活躍していていましたが、30歳を前にしてうつ状態に陥ってしまいます。そこですっぱり会社を辞めて旅に出ます。付き合っていた彼とも別れてしまったタイミングでした。
彼女の旅は、少しマニアックで、一般的でない場所が多くて、彼女の感度の良さとバイタリティー、ハチャメチャさが旅先のチョイスからもあらわれていて、面白いです。
最後のロサンゼルスでの「犬顔さん」との出会いが、とても羨ましかったのですが、それはいい話すぎるので、ちょっと置いておいて。
チベットで聖地カイラス山の巡礼コルラについて書いていたところがとても印象的でした。カイラスは標高4675m~5660mあり、全長52kmある巡礼路で、タルチェン~ディラ・プク・ゴンパ(5,210 m)~ドルマ・ラ~タルチェンというルートでまわるのが一般的です。中国政府の許可書がないと巡礼できないという場所です。
ご存知のように中国とチベットとの関係は難しく、チベタンのガイドは許可書がない状態ではコルラに同行できません。そんな中、協力者のチベタンガイドもあり、コルラの巡礼を達成します。
日本ではチベット問題は多少は報道されますが、あまり知られていないと思います。ダライ・ラマの後継とされる、それぞれの政府が支持する2人の青年のことや政治弾圧されたチベタンやそれを怯えながらいまも暮らすチベタンなど、さほど長くない文章ですが、チベット問題の一端を垣間見ることができます。
チベタンのガイドのノブルさんの言葉は、歴史というものそのものの危うさを言い当てているように思いました。
「(前半略)ダライ・ラマ法王は『歴史はつくられている。だからそれを信じては行けない。自分で見たもの、感じたものを信じなさい』と言った。きみたちがチベットでも見たもの、感じたものこそが真実なんだ。だから、それを少しでもほかのみんなに伝えてほしい。それが、僕たちチベット人の願いなんだよ」
本書「旅がなければ死んでいた」より引用
日本は過去の戦争を通して、この歴史が作られてしまう危うさをよく知っているのではないでしょうか。自分が「見たもの、感じたものこそが真実」というのは、コロナ禍のわたしたちにも言えることです。
ネットや文献だけだはわからない、旅に出て、その土地の人と会って感じることって、あると思います。特に政治については、文章で表すのが難しい部分もあり、実際にその土地に行って、聞いてみて、初めて知ることも多いと常々感じます。
チベット、一度行ってみたいなあ。
旅に出なければ死んでいた / 坂田 ミギー著
東京 : KKベストセラーズ , 2019
297p , 19cm