村上春樹さんの「猫を棄てる (父親について語るとき)」を読みました。冒頭、このタイトルのエピソードが書かれています。
村上氏は父親と2人、当時住んでいた夙川から2キロほどの香櫨園の浜辺の防風林の雌猫を置いてくるシーンが出てきます。(その後について詳しくは本書をお読みください。)
その当時は、香櫨園の浜辺は埋め立たられておらず、海はきれいで、村上氏は毎日のように友だちと泳ぎに行ったそうです。その香櫨園の浜辺での冒頭エピソード。とてもインスピレーションを刺激する部分です。
その後、本書では父親の生い立ちがあり、ディテールについて、さらに村上氏が後年、自身で調べた様子があります。
非常にプライベート内容ですが、この本を読むことで、読者は自分自身の両親について、思いを馳せざる得ない気持ちになります。
人には、おそらく は誰にも多かれ少なかれ、忘れることのできない、そしてその実態を言葉ではうまく人には伝えることのできない重い体験があり、それを十全には語りきることのできないまま生きて、そして死んでいくものなのだろう。
「猫を棄てる 父親について語るとき」村上春樹著から引用
香櫨園に戻りますが、私は関東に住んでおり、谷崎潤一郎氏や宮本輝氏の作品で名前を目にする程度で、どんなところか実際には知りません。
グーグルMAPを見ると、たしかに香櫨園の浜辺の前方には、埋め立てられて人工島のようなものがあり、そこを高速道路が横切っていて、景色は浜辺と言うよりも、知らない人がみれば運河なのかな?とも思うし、なんとなく東京のお台場の人工浜を想起させるものがあります。
村上氏に関わるとても私的な話であるのに、読者である私も、読了後に私自身の父について考えたり、私と父にとってのエピソードに関わる場所はどこだろうと古い記憶をたぐり寄せながら、考えざる得ない気持ちになります。
猫を棄てる : 父親について語るとき / 村上春樹著
東京 : 文藝春秋 , 2020
101p , 18cm