自粛生活が長引いていますが、いかがお過ごしでしょうか。
時間があるのでいろいろやりたいことはあるのに意外と進まないので、朝目が覚めると無力感を感じたりもします。たとえば、夜になってやっと本が読めるとベッドに入ると、本も読まずに朝まで眠ってしまって、翌日も同じことを繰り返したり。
さて、金原ひとみさんの新刊エッセイ「パリの砂漠、東京の蜃気楼」を読みました。
私は金原さんの本をいままで読んだことがなかったので、金原さんというと、綿矢りささんと芥川賞同時受賞で、それもふたりとも20歳というインパクトだけが印象に残っていました。
少し前まで住んでいたというパリのことも含むエッセイがでると広告が出ていて、読んでみたいと思いました。結論からいうと、繊細な部分があり、感受性が強い金原さんを(何も知る由もない私ですが)彼女を好きになりました。彼女の書くこと、感じ方に共感するものがあったし、彼女が書いていることは十分に私に伝わってきました。
東日本震災後に、1歳と4歳のお嬢さんを連れて渡仏。パリでの母子生活をスタートさせました。夫も一緒に住むようになり、約6年のパリ生活を終えて、後半は日本へ帰国してからの生活が描かれています。
パリ生活の間には、2015年にシャルリー・エブド襲撃事件と後に呼ばれたテロがあり、その年には、大統領選でル・ペンに勝ってマクロンが大統領になりました。警報機が鳴るとテロかもしれないと身を固くし、近くのビルから飛び降りがあったと度々耳にする日々に、死を身近に感じる様子が伝わります。
もともとパリに永住するつもりで住み始めたわけでなく、自分で住むか、住まないかを職業柄(もちろん実績があって)決められる立場にあるというのは、一般人にはない境遇だと思います。だからこそ、家族もいて、フランス生活が長く馴染んでいる娘たちの生活もあり、どうするか悩む彼女の姿があります。しかし、実際問題パリでの生活は、個人主義という面があるのか、いろいろなことがサービス精神にかけることが多く、一度トラブルにあうと本当に面倒だったりするようです。
旅で行くと、ただただ素敵なパリも、住んでみるとまた見えてくるものはディープで、違うものが見えてくるのです。それでは日本は手放しで最高!となるかというとそう単純なものではないのだと思いますが、この本は旅する前にも読んでもらいたいなって思いました。
できれば、コロナ禍の今を金原さんにもまた書いてもらいたいなって思いました。
パリの砂漠、東京の蜃気楼 / 金原 ひとみ著
東京 : 集英社 , 2020
216p , 20cm