おはようございます。
ついに、エレナ・フェッランテの「ナポリの物語」が今回読了した第4巻で完結となりました。第1巻の冒頭で、トリノに住むエレナとリラの息子リーノが電話でリラの不在について話す印象的なシーンが出てきます。そのシーンは謎のまま、話は過去に遡ったのですが、この巻の最後にそのシーンが繋がっていきます。
読み終えて、ため息のような思わず「おおー」という気持ちと、ついに終わったかという一抹の寂しさのようなものがこみ上げてきます。
戦後と言われる1950年代にナポリの貧しいある地区で生まれたリナ(リラ)とエレナという2人の少女の話です。この小説自体は、のちに作家となったエレナの目線で書かれています。4巻に渡る長編です。(各巻についてもこのブログでは書いてきました。)
小説の中には、リナとエレナの住んでいたというナポリの団地の具体的な地名は出てこないものの、Googleストリートビューをみながら、あのあたりかなと思ったりしながら読みました。
物語の中では、悪党として地区の人に恐れられていたソラーラ兄弟がマルティリ広場(Martiri=殉教者たちの意)に店を出したり、ニーノ(エレナが幼少時代から好きだった)が部屋を借りて、エレナと子どもたちと住むことになる海が見える高台のタッソ通り(Via Tasso)の地名なども出てきます。ストリートビューを見ると、その場所の雰囲気がイメージしやすくなります。
例にあげたマルティリ広場も、タッソ通りはどちらかというとナポリの中では山手なイメージに近い雰囲気がありました。後半、ナポリの歴史を調べていたリナから、彼女たちが子ども時代に遊んでいた場所からも近いというサン・ジョヴァンニ・ア・カルボナーラ教会、フォルチェッラ地区など、観光客が足を踏み入れるのには慎重になるようなエリアの地名も出てきます。リナとエレナ、ニーノたちが子ども時代に住んでいた場所について想像をかきたてられます。
同じ地区に生まれ、少女時代のリナとエレナは性格的にも正反対の2人です。高等教育まで突き進んでいったエレナ。リナは地区から出ずに小学校で学業を辞めてしまったけれど、第1巻の原題「L'amica Geniale」(天才の友人)はまさにリナのことです。幼い彼女の「青い妖精」という文章の類まれな才能に女性教師が気づき、早くから身近でそれを感じていたのはエレナでした。
第2巻、第3巻と彼女たちはそれぞれに成長し、青春時代、結婚や出産、離婚など、それぞれのステージ進みます。しかし、お互いを絶えず意識しながらも距離を取ったり、近づいたり、家族を増やし、歳を重ねていきます。
第3巻の最後では、エレナが同じ地区出身の昔から憧れていたニーノと再会し、夫ピエトロと娘2人も置いて数日逃避行しましたが、この第4巻では、その後のニーノとの蜜月、夫ピエトロとの離婚に向けての話し、家族と過ごしたフィレンツェからニーノが住むことを望んだナポリへ移ることを決めます。リナ(リラ)はナポリから出ることなくずっと暮らしており、ニーノは、第2巻でリナと深い仲となって、すでに別れた過去があり、さらに絡み合っていきます。
第4巻の時代は、1980年代から2005年頃となっていて、電話がない子ども時代から電話が引かれ、それでも手紙のやりとりも頻繁に行われます。さらに、後半には主人公たちがメールを使う姿も出てきます。
第1巻~4巻を通じて、イタリアの戦後史の中で印象に残る赤い旅団の事件やボローニャ駅爆破事件などの記述、1980年にナポリで起こった地震(イルピニア地震)もエピソードとして出てきます。
おそらく私は、エレナの娘たちと同世代ではないかと思いますが、自分自身が歳を重ねるように、時代が移りゆくさまを史実とともに読むことができます。日本においても、私の生まれた70年代の70年安保から80年代のバブル期に移行していくように、学生運動や世論、政治も変わっていく時代でした。そういったイタリアの歴史描写も読者にさらに関心を引き寄せさせ、物語の奥行きを深くしているのではないかと思います。
ネタバレができないため、あまり詳しく書くことができませんが、第4巻はもう目まぐるしい展開です。この第4巻では、メインとなっていた複数の登場人物の消失という驚きもあります。リナとエレナは、この4巻を通して、常に嫉妬したり、羨望したりする気持ちがお互いに巡っていて、ああー、女の友情ってめんどくさいとも思ってしまうのです。
でも、ふたりのことが気になって仕方なくて読んでしまいます。
失われた女の子 / エレナ・フェッランテ著 ; 飯田 亮介訳
東京 : 早川書房 , 2019
600p , 19㎝ - (ナポリの物語)
著書原綴: Storia della bambina perduta
著者原綴: Elena Ferrante
<ナポリの物語シリーズ>
4.失われた女の子 2019/12発行
3.逃れる者と留まる者 2019/03発行
https://umemedaka-style.hatenadiary.jp/entry/2019/06/29/191126
2.新しい名字 2018/05発行
https://umemedaka-style.hatenadiary.jp/entry/2018/12/07/093603
1.リラとわたし 2017/07発行
https://umemedaka-style.hatenadiary.jp/entry/2017/10/20/163911