原田マハさんの「常設展示室」を友人から借りた時に、表紙の絵を見て、「あっ、この配置、見たことある」と思わず言ってしまいました。
この本の装丁は、オランダのハーグにあるマウリッツハイツ美術館の展示室の写真です。フェルメールの「デルフトの眺望」の絵が展示されていて、瞬間的に、私もその場所に引き戻されたような感じがしました。
この本では、美術館で学芸員をする女性や、画廊で働く女性を主人公に、美術館の常設展示室を絡めた短編集になっています。マウリッツハイツ以外に、ニューヨークのメトロポリタン美術家やパリ近代美術館、日本の国立近代美術館などを題材にしています。
このマウリッツハイツ美術館の短編は、画廊に勤める主人公がスカイツリーの近くの、やっと気に入ることの出来た介護施設に父を入れることが出来て、弟が主に父を看てくれることになり、オランダに出張に行っているときに、父が逝ってしまうのですが、オランダ出張で立ち寄ったマウリッツハイツ美術館で「デルフトの眺望」に遭遇することが書かれています。
マウリッツハイツ美術館といえば、フェルメールの「デルフトの眺望」よりも、彼の描いた「真珠の首飾りの少女」を目当てで出かける人が多いのではないでしょうか。
先日もフェルメール展が上野の森美術館であり、それはとてもとても盛況でしたが、フェルメールが生涯に描いた30数点の中でも、もっとも有名といえるのが「真珠の首飾りの少女」ですが、こちらの作品は日本には来ませんでした。それでも、一番多い時期で、9点近くが日本に来ていたというのは、やはりなかなかないことなので、遠方から来た方も多いようです。
マウリッツハイツ美術館には、オランダ・ベルギーのシーズンには、また来ちゃったというような感じで、たびたび出かけることがありました。
思った以上に小さな邸宅が美術館になっていて、個人宅に出かけたよな雰囲気の美術館で、階段を上がった端の方の部屋に「真珠の首飾りの少女」と、この「デルフトの眺望」が展示されていました。
私が行っていたころには、人だかりになることもなく、間近で少女と対面できる感じでした。そして、「デルフトの眺望」もじっくりと鑑賞できたことも覚えています。ツアーでは必ずデルフトの眺望が描かれた場所も車窓からですが見られるので、いつも絵の雰囲気のままだなと思いながら通過するのが常でした。
私の中のマウリッツハイツ美術館のもう一つのエピソードとしては、マウリッツハイツ美術館の入り口の近くに、オランダの名物の”ハーリング Haring”(一日塩漬けした生ニシンを塩抜きに玉ねぎのみじん切りが添えてある)のスタンドが出ていて、そこのハーリングは評判がよく、美術館を早めに出ると真っ先にそこに行って、ハーリングを手で吊り下げて、上を向いてぺろりと一口で食べるのも楽しみだったということです。
日本人はイワシのお刺身も食べるので、生魚に近いものも抵抗はありませんが、オランダの人も国民食という感じでこのハーリングを食べるのは不思議な感じがしました。
花より団子というか、絵よりもハーリングみたいな感じになってしまいましたが、マウリッツハイツ美術館は本当に小さな美術館ですが、落ち着いた雰囲気のあるかつての首都ハーグの町にもなじんでいて、行く価値のある美術館だと思います。
常設展示室 / 原田 マハ著
東京: 新潮社 , 2018
p190 ; 20cm