umemedaka-style’s diary

本と旅をつなぐブログ

第54号:和解の家・・・「帰れない山(LE OTTO MONTAGNE)」

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本年もよろしくお願いいたします。

昨年末に母が急逝し、ほぼ何も考えることができずに日々が流れていきました。

新年になり少しずつですが、自分自身で日常を取り戻していこうと思い始めた今日この頃です。

 

さて、今年1冊目の本は、すでに12月に入ってから読み始めていた本ですが、イタリア人作家のパオロ・コニェッティ著「帰れない山」です。

 

2016年に本国では発刊され30万部を超えベストセラーになり、イタリアの文学賞の最高峰<ストレーガ賞>なども受賞したそうです。

 

主人公の「僕」(友人ブルーノはのちに彼を「ベリオ」というあだ名で読みました)と両親は、ミラノに住んでおり、夏になると山が好きな両親とともに山に出かけて行っていました。両親は山を愛していましたが、母は低山が好きで、父は自分が踏破したことのない頂を目指して挑戦していくのが好きだったようです。

 

両親は、イタリアのグラーナ村に夏の家を手に入れました。そして、毎年夏になるとグラーナ村の家に出かけていく夏が続きました。母はそのもともとあった家を自分たちの使いやすいように手を入れて行き、父はメーカー勤めの休みの関係もあり、途中から合流し夏を過ごし、「僕」が大きくなってくると、父はその村に住む「僕」よりも1歳年上で、叔父の羊飼いの仕事を手伝う少年ブルーノの二人を連れて、稜線を目指すようになりました。

 

ブルーノは地元の子らしく足も強くたくましく、寡黙な少年でした。学校に通ううこともままならず、「僕」の両親が心配していたこともあり、父は山歩きには彼も連れ出し、徐々に僕と彼は意気投合していき、二人で山を駆け回り遊び、毎夏を過ごすのでした。

 

そんな毎夏の習慣だったグラーナ村通いも、「僕」が大人になっていることと引き換えに、「僕」と父との溝もあり、「僕」だけは足が遠のいてしまいました。

 

それから、何十年か経ち、62歳で父が亡くなり、「僕」は31歳になり、父が「僕」へ残したものに土地の売買契約書と登記書があり、見ても場所もよくわからないが、ブルーノが知っていると母がいい、「僕」は久しぶりにグラーナ村に出かけていきました。

 

ブルーノとの十数年ぶりの再会。彼は昔の印象を残しつつ、たくましく心根のまっすぐな大人になっていました。「僕」は最初は彼との距離を心配していましたが、いつの間にか昔のように心を開くことができ、関係性が変わっていないことを理解しました。

 

「僕」が村に通わなくなってからも両親は毎夏村に通い、ブルーノとは親しく付き合っており、「僕」の話は両親から聞いていたようです。といっても、「僕」は実家のミラノから離れ、トリノに気に入って住んでいたし、ヒマラヤなど海外にも仕事で出かけていて、母へ音信を伝えるものは手紙だったりしたのですが。

 

ブルーノが案内してくれた場所、父が残した土地は、グラーナ村のさらに奥にあるバルマと呼ばれる土地で朽ちている小屋がありました。そこには父の地図があり、踏破したルートに印がつけられていて、「僕」とブルーノと父の3人で踏破したところだけでなく、その後、ブルーノと父が二人だけで歩いた箇所もたくさん記されていました。最初は、そんなブルーノと父の関係に、自分にはなかった関係性を感じ軽く嫉妬もありましたが、次第に自分が失ってしまった父との時間に対しての悔恨の念に変わっていったようです。そして、二人はその朽ちていた小屋を修復していきました。

 

父は「人生のある時点において他人と交わることを放棄し、世界の片隅に自分の居場所を見出し、そこに籠ることにした男」であり、「車で独り死んでいった父には、いなくなったことを悲しんでくれる友もなかった」と「僕」は表現しています。母は、その全く逆の性格の人だったとも。

 

そんな両親が、生まれ育ったヴェネト州の農村を駆け落ち同然で離れたことも、山に関わる悲劇が関係していました。それが、彼の父に影を落としていたことも否めないでしょう。

 

ブルーノは、石工の仕事をしていましたが、叔父の荒れ果てた農場を買い取って、牧場を再建し、ラーラという妻も得て、子供も一人できましたが、牧場経営はうまくいかず破産し、妻とも離婚しました。そして、ブルーノは二人で再建した小屋に住むようになり、冬は雪に閉ざされとても厳しく人を寄せ付けないその場所で暮らし、山を下りないと決めたのでした。

 

詳しくは是非、本を読んでみてください。

 

その主人公ベリオの父が残したその家によって、彼はブルーノと再会し、心を開き、和解し、それだけでなく、生きているときに知りえなかった父・ジョヴァンニ・グアスティについて、この小屋とこの小屋から目指す頂に置いてある踏破したものだけが見ることのできる記帳ノートで知ることで、和解していったのではないかと思います。

 

主人公のベリオは1973年生まれという設定で、私と同い年ということもあり、とても身近に感じました。タイミングとしても、自分の知らないというか、知ろうとしなかった親という一人の人間について、感慨深く考える時間というのも、今の私にとっては実感を持って感じることができます。

 

ここにかかれるグラーナ村が文字通りで、Granaだとすれば、ワインで有名なアスティの北北東の辺に位置していますが、ここからだとモンテローザの麓のアオスタあたりまで、車で2時間くらいかかり、少しイメージと違うかなと思います。

そのため、グラーナ村の場所は判然としません。この小説でも描かれる通り、モンテローザ山群にもっと近いイメージの町だと考えると、このGranaではなく、別にそのような地名があるのかもしれません。もし、お分かりの方がいらっしゃれば、教えてください。

 

帰れない山 (新潮クレスト・ブックス)

帰れない山 / パオロ・コニェッティ著 ; 関口英子訳

東京 : 新潮社 , 2018

271p ,  19㎝. 

著書原綴:   Le otto mongtagne

著者原綴: Paolo Cognetti