第21号:ニースにある"L’hôtel-Pension Mermonts"の建物は、今の健在。「夜明けの約束」

今年6月に、日本語訳の初版として発刊されたロマン・ガリ著「夜明けの約束」は、ロマン・ガリの自叙伝的小説であるにも拘わらず、著者の死後37年たった今年、日本で発売され話題となった。ロマン・ガリは小説家であり、映画監督、外交官でもあった。

 

1914年ロマン・ガリ(本名ロマン・カツェフ)は、現在リトアニア共和国のヴィリニュス、当時ロシア帝国のヴィリアと呼ばれた町で生まれた。この小説の中では、ヴィリアで、”私”ことロマン・ガリと母との2人の生活は、当初、けして豊かではなかったが、母は息子の生活を賄うため、仕事を変えながら、持ち前の商才を生かして、貴婦人たちのドレスを仕立てる高級サロンを開くまでになった。息子である”私”こと、ロマン・ガリの病気による療養でヴィリアを離れたことにより、店の経営がうまくいかなくなり、追われるようにポーランドワルシャワへ移り、そこでもあらゆる仕事をし、遂になんとか母の憧れであったフランスへ、移ることになったのであった。その場所は、地中海に面するニース。

 

父のことは、息子である”私”にはあまり語らなかったようだ。常に、一人息子に、多大なる期待し、褒めたたえた。息子の才能を見い出すためならば、スポーツ、芸術、様々なものを試させた。1人息子の将来への投資の為には、お金も惜しまなかった。いつしか母は息子は「フランス大使」になるといい、彼も母の期待に応え、ひとかどの人物になりたいと思い続けた。

 

ニースに移り、母はロシア時代からのサモワールを売ることで当座生活できると思っていたが、あては外れた。しかし、人をも動かす熱意の甲斐あり、骨董の委託販売や不動産仲介など仕事をし、その後、ビュファ市場へ続く、ダンテ通りを見下ろせるペンションホテル「Mermonts (メールモン)」を女主人として切り盛りするようになった。

 

ペンションホテルメールモン(L’hôtel-Pension Mermonts)。Merは海で、Montsは山。

小説の中でも出てくる、ロマン・ガリの母が切り盛りしていたペンションホテルだ。私はメールモンがまだニースにあるのかが気になった。そして、ビュファ市場?ダンテ通り。

 

今は便利で、Google MAPで調べれば、ホテルネグレスコの裏手を少し行ったところにあるダンテ通りもすぐに出てくる。ダンテ通りの先が、ビュファ通りと出ている。ビュファ市場は見つけられなかったが、おそらく、このあたりにペンションホテル「メールモン」があったのではないか考えながら、さらに調べていくと、ペンションホテル「Mermonts (メールモン)」の建物は、今も健在で、”イストラ・エージェンシー”という不動産の会社の持ち物となっているようだ。

 

その不動産会社のウェブサイトに掲載されている写真の建物は、ロマン・ガリ著のこの「夜明けの約束」で出てきたペンションホテル「メールモン」(L’hôtel-Pension Mermonts)ということが書かれているようだ。(フランス語はよくわからないので、翻訳ソフトで読んでみた)ロマン・ガリの名が大理石のプレートにも刻まれているようだ。

L’hôtel-Pension Mermonts

www.istra.fr

ロマン・ガリは、学生時代から文章を書くことが自分には合っていて、進むべき道だと理解し、執筆を始めていた。大学では、エクサンプロヴァンス大学で法学を学び、ニースを離れた。パリに移り、貧乏でどん底な時もあったが、雑誌に彼の文章が初めて掲載された。

 

その後、サロン・ド・プロヴァンスの空軍士官学校に進んだ。帰化してから時間が短い彼だけ士官になれないという挫折を味わう。時代は、ヒトラ―が台頭し、負けるはずのないフランスが苦戦を強いられ、戦地で多くの仲間が死んでいき、”私”は九死に一生を得て生き延びていた。母はペンションホテル「メールモン」を切り盛りしながら、遠い戦地で戦う息子を手紙で励まし続けた。

 

訳者のあとがきにもあったが、第42章の言葉は印象深い。

「おそらくたとえ母親であったとしてもたった一人の人間をあれほどまでに愛するのは許されないことだ。」 

過剰な程の惜しみない母の愛。一人息子を持つ母である私自身、何とも表現のしようのない、ため息のようなものがでてしまう。そして、息子と母との別れは必ずあり、この小説の中でも、それが訪れるわけであるが、そこにおいても、息子への母の愛情あふれるサプライズ待ち構えている。

 

ニースに行って小説の中にもでてくる、海沿いの大通りプロムナードザングレや彼が帰省すると出かけた”グランブルー”の海水浴場や、”L’hôtel-Pension Mermonts”だった場所から、ダンテ通りとビュファ通りを歩いてみたら、ロマン・ガリが見ていた小説の中の風景に近づくことができるかもしれない。

 

この小説の回想の中には、始終、母のいない喪失感のようなものが漂っている。これを読んだ母は、いったいどう感じるのだろう。

 

夜明けの約束 (世界浪曼派)

夜明けの約束 (世界浪曼派) /  ロマン・ガリ著 ; 岩津 航訳

東京 : 共和国 , 2017

333p ; 19㎝

書名原綴: La Promesse de l'aube

著者原綴: Romain Gary