第20号:『心変わり』・・・ローマへの列車の中で

先日、お客様のローマの旅の手配をしていて、ボッロミーニが設計したサン・カルロ・アッレ・クアトロファンターネ教会の近くのホテルを予約した。このクワトロフォンターネという名前の通り、4つの泉が四つ角にある近辺には、バロック全盛のころ、ボッロミー二とライバルとして争ったベルニーニが作った作品が多くある。

 

ベルニーニといえば、サン・ピエトロ広場を設計したことで有名であるが、このクワトロフォンターネに近いバルベリーニ広場のトリトーネの泉やバルベリーニ家の紋章の蜂を飾る蜂の噴水もベルニーニの作品である。

 

ボッロミー二を思いだすとき、いつもこのミッシェル・ビュトール著の『心変わり』を思いだす。1950年代半ばに書かれた小説で、2人称で構成されているところが珍しい。

 

パリに住む主人公「きみ」は、ローマのフランス大使館に勤務する「彼女」セシルに会いに行く。早朝発の21時間35分(パリ・リオン駅ーローマ・テルミニ駅間)の3等車室の中で、「きみ」が回想し、まさに”心変わり”を起こす過程が描かれている。

 

いつもは商用で1等車でローマまで来ていた。でも今回の旅は、3等車の旅で商用でなく、休暇を取った自腹の旅である。

 

「きみ」は妻アンリエットと別れて、「彼女」セシルと一緒に暮らすことができるように、パリでのセシルの仕事を見つけてきたことを言いに行くつもりだった。

 

しかし、「きみ」はこの1等車を利用していたときよりも、2時間55分もさらに時間がかかる窮屈な3等車室の中で、いろいろなことを回想し、思いを巡らし、ついに第3章で”心変わり”(LA MODIFICATION)と言葉をだす。

 

その言葉までたどり着くまでが、小説としても長く、この旅の長さがうかがえる。

その回想の中には、バロック好きだった2人がデートした様子が描かれ、ベルニーニとボッロミーに作品を見て歩いた日のことが書かれていたりする。2人の関係はローマ・カトリックの考えに背くと2人はヴァチカンを嫌っていた。

 

そして、「きみ」がこの結論に至るにあたって、「彼女」セシルへの愛は、ほかならぬローマという都市の魅力でもあったと悟るのであった。

 

ええっー、そんな結論??と女性の私は思ってしまうのだが、なんとなくわかるなーとも思うのだった。ローマのバロックを見て歩くデートとはどんなに素敵なものだっただろうと思う。ローマの眩しくあかるい日差しの中、バロックの両巨匠の作品を見て歩くデートか・・・。こんな風に素敵にローマの町自体を描く小説はなかなかないと思う。

 

1950年代、21時間半程かかったパリからローマへの列車の道のりは、いまでもミラノまたはトリノ乗換でも11~12時間かかる。ナポレオンも超えたとされるグラン・サンベルナール峠のあたりを通過する「きみ」が旅した列車の旅は、「心変わり」が起きても仕方ないほどの長い道のりだったのだろう。

心変わり (岩波文庫)

心変わり / ミシェル・ビュトール著 ; 清水 徹訳

東京 : 岩波書店  , 2005

482p ; 15㎝

書名原綴: Modification,La

著者原綴: Michel Butor