第17号:「昔も今も」、気になるイーモラ

イタリアの中部、ボローニャから列車で30分の場所にあるイーモラ。小さな町ではあるが、車好きならばイーモラサーキットを思い起こすかもしれない。

 

この町に関心を持ったのは、この天野 隆司訳の、サマセット・モームの「昔も今も」と遭遇して読み始めてからである。この作品では、チェーザレボルジアがカテリーナ・スフォルツァから奪い取り手中におさめたすぐ後のイーモラが出てくる。

 

塩野七生さんの「チェーザレボルジアあるいは優雅なる冷酷」を読んだ時には、イーモラの町よりも、チェーザレ自身のほうがイメージに強かったせいかこの町の名前は印象に残っていなかった。だから、この作品を読んで、イーモラに行ってみたいと思ったし、自分が企画したボローニャ滞在のツアーで、イーモラやフォルリを入れてツアーを作ったりした。でも、そのツアーは幻に終わり、人数が集まらず催行されず、1シーズンでお蔵入りになった。

 

サマセット・モーム自体は、ほとんど読んだことがなかった私が言うのもおこがましいが、訳者の天野氏は、いままで日本で翻訳されていなかったこの名作を発掘し、2011年に発刊された。この1冊は価値ある1冊だと思う。

 

物語は、『君主論』を書いたマキャベリフィレンツェ政府シニョーリアの書記官として、イーモラ(ボローニャの東)にいる教皇アレクサンドル6世の私生児、チェーザレ・ボルジアへの決裁権のない使節として出向いたときの話。

 

時代は1500年前後、チェーザレが公爵としてスフォルツァ家のイーモラ、ウルビーノなどのイタリア中部都市を手中に収め、フォルリの城からさらに他都市を攻めこもうとするあたりでマキャベリ使節としての役目を終えるが、チェーザレの類いまれなるリーダーシップ、礼節さと親切心を巧みに使いこなす手腕に、たびたびマキャベリは感心させられる。マキャベリフィレンツェの役人でありながら機知にとんだ姿と、一個人の男として、イーモラ商人バルトロメオの若妻アウレリアを狙う策略が面白い。

 

有名な『君主論』が実はチェーザレボルジアをモデルにマキャベリによって書かれたことが、この本を読み納得できる。

 

チェーザレボルジアと父アレクサンドル6世はルイ12世のジャンヌ・ド・フランシスの婚姻取り消しとアンヌ・ド・ブルターニュの再婚にも絡んでるいて、気になってはいたが、こんなにもすごい武将だったとは意外だった。

 
また、主人公であるマキャベリはとても才気あり、ユーモアあり、イタリア男らしさあり、この1冊を読むことで、とても身近に感じられる。
 
イーモラの町は、チェーザレが占領する前は、スフォルツァ家のカテリーナ・スフォルツァ塩野七生さんの「ルネサンスの女たち」でも出てくる)の土地だった。カテリーナは抵抗したが、チェーザレにイーモラを奪われる。チェーザレは、この土地を彼の軍事技術者であったレオナルド・ダ・ヴィンチに都市計画をさせようとしていた。その図も残されている。その後、チェーザレは失脚し、その都市計画は実現しなかった。
 
もしも、チェーザレがあと何十年か長生きをしていたら、イーモラは中部の中心都市となっていたかもしれないし、周辺の中部イタリアの都市の歴史も大きく変わっていたかもしれないと思う。
 

昔も今も (ちくま文庫)

昔も今も / サマセット・モーム著 ; 天野 隆司 訳

東京 : 筑摩書房 , 2011

371p ; 15㎝

書名原綴: Then and Now 

 

チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷 (新潮文庫)

チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷  / 塩野 七生著

東京 : 新潮文庫, 1982

334p , 15㎝

 

ルネサンスの女たち (新潮文庫)

 

ルネサンスの女たち  /  塩野 七生著

東京 : 新潮文庫 , 2012

443p ,  15㎝