イタリアの中部、ボローニャから列車で30分の場所にあるイーモラ。小さな町ではあるが、車好きならばイーモラサーキットを思い起こすかもしれない。
この町に関心を持ったのは、この天野 隆司訳の、サマセット・モームの「昔も今も」と遭遇して読み始めてからである。この作品では、チェーザレボルジアがカテリーナ・スフォルツァから奪い取り手中におさめたすぐ後のイーモラが出てくる。
塩野七生さんの「チェーザレボルジアあるいは優雅なる冷酷」を読んだ時には、イーモラの町よりも、チェーザレ自身のほうがイメージに強かったせいかこの町の名前は印象に残っていなかった。だから、この作品を読んで、イーモラに行ってみたいと思ったし、自分が企画したボローニャ滞在のツアーで、イーモラやフォルリを入れてツアーを作ったりした。でも、そのツアーは幻に終わり、人数が集まらず催行されず、1シーズンでお蔵入りになった。
サマセット・モーム自体は、ほとんど読んだことがなかった私が言うのもおこがましいが、訳者の天野氏は、いままで日本で翻訳されていなかったこの名作を発掘し、2011年に発刊された。この1冊は価値ある1冊だと思う。
物語は、『君主論』を書いたマキャベリがフィレンツェ政府シニョーリアの書記官として、イーモラ(ボローニャの東)にいる教皇アレクサンドル6世の私生児、チェーザレ・ボルジアへの決裁権のない使節として出向いたときの話。
時代は1500年前後、チェーザレが公爵としてスフォルツァ家のイーモラ、ウルビーノなどのイタリア中部都市を手中に収め、フォルリの城からさらに他都市を攻めこもうとするあたりでマキャベリは使節としての役目を終えるが、チェーザレの類いまれなるリーダーシップ、礼節さと親切心を巧みに使いこなす手腕に、たびたびマキャベリは感心させられる。マキャベリのフィレンツェの役人でありながら機知にとんだ姿と、一個人の男として、イーモラ商人バルトロメオの若妻アウレリアを狙う策略が面白い。
有名な『君主論』が実はチェーザレボルジアをモデルにマキャベリによって書かれたことが、この本を読み納得できる。
チェーザレボルジアと父アレクサンドル6世はルイ12世のジャンヌ・ド・フランシスの婚姻取り消しとアンヌ・ド・ブルターニュの再婚にも絡んでるいて、気になってはいたが、こんなにもすごい武将だったとは意外だった。
チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷 / 塩野 七生著
東京 : 新潮文庫, 1982
334p , 15㎝
ルネサンスの女たち / 塩野 七生著
東京 : 新潮文庫 , 2012
443p , 15㎝