主人公のグレゴリウスは、スイスのベルンにあるギムナジウムでヘブライ語、ギリシャ語の教師をしていた。
ある雨の日に勤務するギムナジウムへ向かう途中のキルフェンフェルト橋から飛び降りようとした女を彼は引き留め、その女に「あなたの母国語はなんですか?」と問い、女は「ポルトゲ―シュ(ポルトガル語)」と答えた。彼のおでこに、忘れたくないという電話番号を書き残して。
そして、勉学に打ち込みギムナジウムでも最も信頼される教師としてやってきたグレゴリウスだったが、突然授業放棄し、古書店に立ち寄り、いままで唯一関係がなかったともいえるポルトガル語の1冊の本を買い、女を追いかけるように、ポルトガルを目指して、列車に飛び乗ってしまった。列車は、途中、ジュネーブ、別れた妻との苦い思い出の残るパリ(リヨン駅に着き、モンパルナスへ移動するタクシーで回想する)、イルン、ビアリッツを経由してリスボンへ。
リスボンに着き、グレゴリウスは、ベルンの古書店で買った「赤い杉」という本の著者のアマデウ・デ・プラドという医師だった男を知りたくなり、一つ一つ彼に近づく糸を辿っていく。
非の打ちどころがなく、優秀で慕われる医師だったアマデウが、医師として、独裁政治の体制のなかで虐殺者とよばれた人物を助けたことで、その日を境に人々が離れていった。そして、彼はレジスタンスとして生きることを決める。誰に知られることもなく、秘密裏に、彼が死んでからその事実が知られることになるわけだが。
グレゴリウスはなぜか、全く自分とは違う境遇(アマデウは上流階級ですべてに恵まれていた)の彼に興味を持ち、そして、彼を知る人々に逢い、彼らとも心を通わせながら、彼の人生を知ることで、自分の人生をもう一度見つめなおす。
旅には、たしかにグレゴリウスほどではなくても、自分を見つめなおすきっかけになることがあると思う。
この「リスボンへの夜行列車」の著者は、哲学者であるらしく、まさにすんなりと入っていかれる哲学書を読んだような読後感がある。そして、アマデウがとても愛した美しいリスボンに行きたくなる。
映画はまだ見ていないが、だいぶ前に日本でも公開していたようだ。ジェレミー・アイアンズがグレゴリウスを演じていて少し原作とは違うと友人から聞いている。
リスボンへの夜行列車 / パスカル・メルシェ著 ; 浅井 晶子訳
東京 ; 早川書房 , 2012
486p ; 20㎝
書名原綴: Nachtzug nach Lissabon