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第3号:サラエボ・ハガタ―は何処に?「古書の来歴」

ジェラルディン・ブルックス著のこの「古書の来歴」で、初めて「サラエボ・ハガタ―」というものを知った。

 

 「ハガタ―」はユダヤ教のすぎこしの祭りの晩餐で使われる書物であり、それはユダヤ教の人々にとって、大変重要なものであることがわかる。といっても、なかなかわかりずらかったので、「コトバンク」で調べてみると、世界大百科事典(第2版)内の「ハラハー」の解説にそのヒントがあった。

第1はミドラシュmidrash(注解)という方法で,旧約聖書,特に律法(トーラー)の本文の解釈である。第2のハラハーHalakhah(原意は〈歩き方〉)は,法規を意味するが,その権威の基盤は,成文律法だけではなく,古代から受け入れられてきた慣習,権威ある律法学者の判定,学者たちの多数決など,要するにユダヤ人共同体成員の正しい〈歩き方〉を律すると考えられたすべての権威を含んでいた。第3はハガダーHaggadah(説話)で,聖書の中の非法規的物語や,民話,伝説などに基づく教えである。…

 

 さらに、「ミドラシュ」について、同様に調べると、以下のようにあった。

ミドラシュは内容によって,口伝律法を扱った〈ハラハーHalakhah〉(法規)的なものと,それ以外の〈ハガダーHaggadah〉(説話)的なものに分類される。叙述形式としては,聖書の一句一句を解釈する注解型,特定の聖句に基づく説教型,聖書物語を主題とする物語型がある。…

 

この物語では、そのハガタ―が発見されたのは、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争といわれる内戦後の首都サラエボだった。そして、そのハガタ―がイスラム教の人によって、救い出されたという冒頭に「何故?」と思いながら、物語がスタートする。

 

主人公の古書鑑定家のハンナ♀が、この発見されたハガタ―を鑑定することで、この書物が、どのような時代にどんな人の手から手へ渡り、この地まで旅してきたかという話がシンクロされている。時にきっかけは、本の間に挟まった小さな羽であったり、修復された痕だったり。また、ハガタ―の作り手である職人の思いというものが書かれ、この本が何百年にも渡り、大切に守られる価値を感じられる。

 

サラエボには、まだ私は行ったことがない。ヨーロッパを学ぶ上て、サラエボというのは第1次世界大戦のきっかけの場所でもあり、旧ユーゴスラビア解体や、内戦など、歴史を大きく動かす出来事が起こる地であるという印象を持ってきた。隣国の旧ユーゴであったクロアチアスロベニアに行ったときに、あらためて旧ユーゴの歴史的背景を勉強したが、それまで知らないことが多かったと実感した。このボスニア・ヘルツェコビナの隣国の旧ユーゴの地を旅してみて、多民族、多宗教、多言語の土地ではあるが、実際に共存しながら、生きてきた市井の人々の歴史を見ることができ、百聞は一見しかずずだと思った。この本で、他教徒の人々が、このユダヤ教徒にとって大切なハガターを守ったことも、私にとっては、なんとなく腑に落ちる。

 

この本では、さらにそのハガタ―を巡って、陰謀やロマンス、ミステリー的な要素も含まれていて、ストーリー的にもおもしろい。この本がヨーロッパの広域を動いて、サラエボにたどり着いたというルートも、読者はこの古書とともに旅している気分になれる。

 

余談であるが、この本を知ったのは、「さよならまでの読書会: 本を愛した母が遺した『最後の言葉』」 という本で、著者と余命宣告された母との二人の読書会でこの本が出てきたことによる。日本で売れる本と、アメリカで売れる本は違うなと、この本や、「プリズン・ブック・クラブ」など読書会関連の本を読んで感じてしまう。それらの読書会で、取り上げられる本は結構いい本が多くて、私としては本を選ぶ良い情報源にもなっている。

古書の来歴

 

 

古書の来歴 /   ジェラルディン ブルックス 著  ;   森嶋 マリ 訳

東京 : 武田ランダムハウスジャパン,  2010, 508p ; 20㎝

英文書名: The book

 

さよならまでの読書会 : 本を愛した母が遺した「最後の言葉」

/ ウィル・シュワルビ 著 ;  高橋 知子 訳
東京 :  早川書房 , 2013 , 408p ; 20㎝

英文書名: The end of tour life book club

 

 

プリズン・ブック・クラブ : コリンズ・ベイ刑務所読書会の一年

/ アン ウォームズリー 著 ;  向井 和美 訳
東京 : 紀伊國屋書店 , 2016, 445p ; 19㎝

英文書名: The prison book club